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微笑庵の目指している7つの行動指針「和菓子ルネッサンス宣言」の中に、「厳選した素材を使う」という項目があります。これは、ただ単に良い材料を使うというだけでなく、生産者や生産現場に積極的に足を運ぶ、会いに行くことを目指しています。

砂糖関係に強みをもち、卓越した知識と真心こもった営業力でサポートを頂いている食品商社「小板橋」さまのご配慮で、「新東日本精糖」さまの日本最大規模の製糖工場を見学させていただきました。
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ピラミッドの様に積み上げられた原料糖。そのあまりの量に圧倒されます。
(工場見学中の写真撮影は禁止。上記写真は新東日本精糖さまHPより)

この時点では茶色い原料糖が、洗浄、ろ過などの工程を経て、無色透明の糖液になり、それを煮詰めて結晶を育て、遠心分離機で結晶と液体に分けて製品化し、金属探知機を通して出荷されます。(製造工程は新東日本製糖さまHPで動画付きで紹介されています)

原料糖は船で運ばれてきますので、その時点で無菌はありえません。しかし、それを精製する工程で、外気や人手から遮断され、自動化、集中制御で生産管理されています。すべては食品インフラである砂糖の絶対安全のためです。多くの資本と、製品の品質と安全性を高める職人魂、精神性が、ここまでの設備を作ったんだと思いました。

製糖工程や最終製品の品質の高さは、国際比較すると差が歴然だそうです。日本人の砂糖の純度(白さ)へのこだわりは世界トップレベル。海外では「ここまで精製せず、ちょっとくらい茶色くても十分」という国々も多いそうです。

また、純度だけではなく、結晶の大きさへのこだわりも、日本人は飛びぬけて高い。
グラニュー糖だけで、粒の大きさが4種類。
白双糖でも、粒の大きさは4種類。
合計すると、粒の大きさだけで8種類のバリエーションを常に揃えています。これほどの品ぞろえは、国際的には奇異にみられるほどだそうです。

微笑庵では、日新製糖さんの「特F」という一番大粒の白双糖を長年愛用しています。お砂糖の純度で言ったら、グラも白双糖も同じです。ただ、結晶を大きく育てるのは、手間も時間もかかります。
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まるで金塊のような台形をした純結晶。インゴットとよばれているこの形は、砂糖の結晶そのものの自然な形で威厳があります。大粒の結晶がゆっくりと溶け出すことで、餡を炊くときに小豆の粒子に糖分がゆっくりと浸透し、芯までしっかりと甘みが入る。菓子職人が大粒の白双糖を愛用する理由はここにあります。

製糖工場に実際に足を運ぶことの大切さは、その圧倒的は規模感を感じること。製糖現場での暑さや甘い香りを実際に体験すること。大規模な投資の結実である衛生的な製造工程と、それを支える現場の人々の情熱を感じること。私たちのような小さな和菓子店であったとしても、社長さまが直々に会社の役割や社会的意義について、熱をもって説明されること。スタッフの皆さんの清々しい対応と、誇りと自信をもって働いている様子を感じることです。
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狂言・附子(ぶす)の一場面(善竹富太郎さまHPより)

狂言の演目になるほど、古来「甘いもの」は人々の憧れでした。
清少納言の枕草子の中でも、削り氷に「あまづら」をかけたものは「あてなるもの」、高貴で雅なものの代表とされました。(あまづらは甘葛を煎じた汁。平安時代の甘味料。キリン食文化研究所さんのHP解説が素晴らしいです)

私たちは、皆様の生活に潤いや豊かさを感じて頂けるような、「あてなる」和菓子を求めて、これからも精進させていただきます。工場見学を通して、私たちも自分の仕事に自信と誇りを持てるよう、衛生や安全への挑戦を少しでも進化させたいと思いました。



尚、一部の人々の間で「白いお砂糖は健康によくない」「茶色いお砂糖の方が体に良い」という風説がありますが、科学的な根拠が希薄です。健康に良くないのは糖類の過剰摂取です。独立行政法人農畜産業振興機構のHPで詳細が解説されています。ご参考まで。