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2018年05月

人生を変える和菓子本

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尊敬し、憧れる2人の菓子職人の本が立て続けに出版されました。
お二人のことは、活字だけでなく、これまでの生き様やお菓子そのものもにも触れてきました。

2冊に共通するものは、菓子職人としての心意気です。

たかが菓子屋、菓子職人と言えども、日本の文化を支え、守る意識があるのか。

ごく浅い上っ面の部分ではなく、検索してすぐわかる程度じゃなく、体を使って、頭を使って、腹の底から理解しようと本気になっているのか。

石川さんは、伝承者の少ない有平糖の灯火を絶やさないために、和菓子屋の繁忙期で店売りを間に合わせるだけでも大変なのに、命を削るような執筆・撮影を重ねて本書を完成させました。有平糖の美しさと技術は海外でも高く評価され、日本での出版が始まったばかりなのに、仏語・独語にも訳され、海外での紹介も視野に入れて製作されたようです。

水上さんは、一流のパティシエとの交流や、海外で和菓子を紹介する活動を重ねる中で、菓子職人はもっと和菓子や日本文化に対してハングリーにならないといけないと、身をもって示しています。一幸庵のブランドブックの製作には実に5年の歳月が費やされています。72候の和菓子のなかで、「蟷螂生」のエピソードを読んで、鳥肌が立ちました。「和菓子は何でも表現できる、ことを菓子職人が知らない」「どんなに技術がすぐれていても、美味しくなければ始まらない。でもどんなにうまいと言ったところで、色気がなければ和菓子じゃない」

SNSの普及で、優れた菓子、優れた職人は一瞬にして世界中から注目を浴びる時代になりました。そんなキラキラした菓子や人と自分を比べて、劣等感を抱き、進むべき道を迷うことも少なくありません。そんな私に、この2冊の本は、進むべき道を示す灯台のように感じました。

本は単なる活字ではない。その人そのものだと深く思いました。

かしわ餅の美について

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かしわ餅が好きです。

上質なお米の香りを楽しむ菓子。
米が主食の日本人の心を鷲掴みにする香りだ。

「歯形が残るほどむっちりとしていて、
 それ以上噛むとプリッと切れる歯切れの良さを目指しなさい」

師・佐々木勝は、言葉にならない美味しさを、
適切に表現する名人だと思う。

同じレシピ、製法を守れば、一定の味わいは表現できる。
でもかしわ餅は味だけで満足してはダメな菓子だ。
姿・形に色気がなければ台無しだ。
kasiwa
「蛤型・兜型」
と言われる、独特のフォルム。
閉じ口は女優の唇の様な色気を醸し出す。

修業中、何度も何度も弟子を叱咤激励し、
色気あるかしわ餅を目指せと美意識まで鍛えてくれた師匠。

著書「和菓子人」の中で、
それを象徴するエピソードが紹介されている。

修業時代の思い出を振り返るコーナーで、
朝日風月堂の河崎さんが語ったこの一言。
練習に励む弟子の作った柏餅の中に、たった一つだけきらりと光る美しいフォルム。
「これ作ったの誰?」
は、たった一つだけ作った自分のお手本。
「天才がいるのかと思った」
と笑う師匠が忘れられません。
インスタ 引網 かしわ餅
https://www.instagram.com/p/BiIjbt6lhpc/

師匠の技を受け継ぐ職人の中で、心から尊敬できる仲間のひとり「引網康博」さん。
インスタグラムでかしわ餅を包む動画を公開している。

その美しい手業に、師匠の技と心がしっかりと生きている。
スタッフとシェアし、穴のあくほど何度も見るように伝えた。

かしわ餅は単に美味しいを超えた美意識を讃えた菓子だ。

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