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2016年10月

こうえつに秘めた物語

カテゴリ:
kouetu
ひとくちに「栗蒸し羊羹」といっても、千差万別。
姿形も、食感も、お店によって全く違うし、
同じレシピで作っても、同じように作るのは至難です。

師匠は、私の在籍した3年間だけでも、
葛やわらび粉を加えたり、薄力粉と強力粉を混ぜたりと、
何度も何度も 改善を繰り返していました。
おそらく今でも「もっと良くなる」と信じて工夫を続けていることでしょう。 

京山さんでお世話になって良かったことの一つに「立地」があります。
地下鉄東西線で日本橋までたったの20分。
毎月1回は三越さんと高島屋さんをハシゴしていました。
都内の名店に伺うのもアッという間です。

秋の和菓子の食べ比べの中で、
私がもっとも感銘を受けたのは…
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この雑誌はお宝なのであえて名前は書きませんが、
村山なおこさんが書いたこの記事の通り、感銘を受けました。
修業をしていた1995年ごろは、
まだ今ほど有名ではなかったと思います。

そしてこの本
kurusukei
書評は和菓子の本棚に掲載済みなので繰り返しませんが、
今では文字だけの色気のない本ですが、
出版当初はネットと連動していて、
紹介されたお菓子の写真を見ることができるようになっていました。

当時6,000軒を食べ歩いたという来栖さんが、
和菓子部門のNo.1にしたお菓子…
それは、私が想う秋一番のお菓子と同じものでした。

栗蒸し羊羹には本当に色々な表現がありますが、
私は「これしかない」と思い、何度も何度も試作しては、
無謀にも憧れの菓匠に持参して意見を求めました。
何度も…何年も…

そして2004年、「こうえつ」は生まれました。

「姿形、香り、味わい・・・・・。
 秋、日本に暮らす幸せを感じさせてくれる逸品。」

村山なおこさんのコピー、まさにそのままのお菓子。

夏が過ぎ、初物の新栗で作った最初のこうえつを食べた時、
震えるほどの感動を、私自身が感じてしまう程、
大好きで大切なお菓子です。

秋に栗をむく和菓子屋でありたい

カテゴリ:
kuri
「秋に栗をむく」なんて、何を当たり前のことを!
しかし、缶詰の栗が普及した今、
秋に栗をむく和菓子屋がどんどん減っています。
eitaro
<榮太郎工場図 グラフィック社「和菓子」より>

引用した画像は、明治の和菓子屋の厨房。
現在当たり前に使われている製菓機械は何一つない。
全てのものが手作りだし、保存料だってありゃしない。
作ったら真剣に売り切らなければならない。

今の世の中、相当便利になったけど、
和菓子の世界は、先人の方が良い仕事をしていたんじゃないのか?
先人の菓子の方が美味いんじゃないのか?

だったら、少なくとも微笑庵は、
先人の手仕事の魅力を守り、次代に繋ぐ架け橋になりたい。
kurimuki
 だから、栗の収穫が始まってから終わるまでの1か月間は真剣だ。
毎日、毎日。来る日も来る日も、栗をむき、栗を蒸し、栗をほる。

缶詰の栗だって十分美味しいけど、 
手むきの新栗の美味さを信じ、面倒くさい栗むきを楽しもう。 

「日本文化の魅力を学びなおしたい」
と職場体験にやってきた県立女子大学のHさんも、
朝から夕方まで栗をむき続ける作業に驚いたはずだ。

歩いて5分。烏川のほとりに、どでかい栗の木がある。
父は持ち主のTさんに交渉して、その栗が毎朝届くようになった。
県産の良質の栗を探し出し、毎日買い出しにでるのも父。
ちごもちの苺の生産者を発掘したのも父。
自分にはない行動力に頭が下がった。
kouetu ari
手むきの新栗をたっぷりと使った栗蒸し羊羹「こうえつ」
この写真は収穫最盛期の栗畑の中で撮影して頂いた。
カメラマンを夢見て、本当になってしまったドリームフォト・篠原さんの1枚。 
手前の蟻さんも、栗畑の撮影ならでは微笑ましい。

先人の素晴らしい手仕事を守り、次代に伝える。
「くりまろげ」「こうえつ」には、そんな想いも込められた、
美味しいを超えた逸品です。 

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