2008年02月
創作饅頭コンテスト
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【師匠の思い出】
修行中の話しです。今から30年程前、日本菓業振興会という和菓子の研究団体主催で「創作饅頭コンテスト」が開催されました。
「創作饅頭」という趣旨だったため、チーズ饅頭やチョコ饅頭など、新作の饅頭が多数並んでいました。
そんな中、師・佐々木勝は、見た目には何の変哲もない、薄皮の薯蕷饅頭を出品しました。
見た目は地味なそのお饅頭が、なんと優勝したのです!
私たちは、師匠がそのお饅頭を出品するまでの一部始終を見ていたので、師匠が優勝するかもしれない予感はありました。見た目は普通でも、師匠ならではの「創作」が細部に至るまで施されていました。
あんこについて。上質な小豆というと、普通は北海道の小豆を思い浮かべます。しかし師匠は京都産の希少種、丹波大納言を使いました。北海道十勝小豆と比べると、粒の大きさで2倍以上、価格で4倍以上高価ではあるものの、ふくよかな味と香りが抜きんでています。その小豆はただ問屋から買うだけでなく、現地に赴き、畑を見て、生産者の顔と名前を憶えて買っていました。
炊き上げも、菓子職人がヘラで包めるギリギリの柔らかさを、日ごろから心がけていました。ただ、この時は「コンテスト」だったため、さらに一工夫しました。
パティシエが、ケーキの中にムースの層を忍ばせる際、ムースを型に流して急冷するように、師匠はヘラでは絶対に包むことのできない柔らかさの粒あんを型に流し、急冷してから包み上げたのです。
見た目に「何の変哲もない」お饅頭を口に入れたとたん、とろけるような粒あんと、極薄の薯蕷皮が混然一体となるのです。
温度にもこだわり、冷めないように発泡BOXでギリギリまで保温されていたので、食べた審査員の驚きはひとしおだったことでしょう。
会場を後にしながら師匠は弟子に言いました。
「一見何の変哲もない普通の饅頭に見えるかもしれない。 しかし、普通のものに精魂を込めれば普通じゃなくなるんだ。 ふっくら、しっとりとした皮。 ギリギリまで柔らかくふくよかに炊き上げた粒あん。この基本こそが大切だし、誰にでも真似できるものじゃないんだ。このお饅頭の秘伝は配合じゃない。「あんばい」なんだ。この味を忘れるなよ。このあんばいを忘れるなよ。この饅頭は特別なんだ」
修行時代の伝説的エピソード「創作饅頭コンテスト」。
師匠の技と志を受け継ぐ気持ちを込めて商品化したお菓子が「名残の雪」です。微笑庵を代表する和菓子に育て上げたいものです。
中山圭子さん
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このBlogで和菓子や菓銘の歴史を書くことがありますが、
そのほとんどは「中山圭子」さんの書籍を参考にしています。
中山さんは東京藝術大学在学時に和菓子のデザインのおもしろさに惹かれて、卒業論文に「和菓子の意匠」を選んだ方。
日本No.1和菓子ブランド「虎屋」にて和菓子の展示企画や資料整理にあたる虎屋文庫の研究主幹。
「和菓子夢のかたち」はパートナーの阿部真由美さんのイラストが素晴らしく、中山さんの文章をさらに輝かせている。
「和菓子ものがたり」の花びら餅の章が圧巻。あの小さなお餅に広大な世界観が秘められているという自説に感動しました。
「事典 和菓子の世界」は、本当に重宝。シンプルに過不足なくたくさんの和菓子の解説がされています。
中山さんは和菓子の歴史を本物の歴史的資料に触れながら編纂されている方。
本やネットで調べるのではなく、一次資料まで掘り下げている本物の研究家。
中山さんの文章に触れることで先人の智慧の深さを知り、
菓子に先人の工夫と研鑽の息吹を入魂するのです。
いつもそばに置いて何度も読み返している大切な本です。
いつかご本人と和菓子談義をしてみたいものです。
※なお中山さんの書籍からの引用に問題があればすぐに削除いたします。